改札口にチケットを通すとすぐに汽車はホームに到着した。
『シュウシュウポウポウギィィィ』
不可思議な汽車だ。
今まで見たことがない。
まぁいいとばかりに飛び乗ればやけに車内はガラリとしている。
もたもたしているうちにみんな出勤が終わったんだ。
遅刻を覚悟でふかふかの椅子に腰を降ろした。
見たことがない景色だ。晴れ晴れとした青空はいつものことだがこんなにも自然をゆっくり見ているだろうか。
しばらく流れる景色を眺めているとどやされる気持ちも今は少し軽い。
『次は猫村〜猫村〜』
路線が違えば次の停車駅まで名前が違う。
恐らく三つほど行けば猫役場に着くはずだ。汽車はまた
『シュウシュウポウポウギィィィ』と停車した。
後ろの席には初老の女性が座り、これまた初老の男性が座る。
これだけ空いていて相席となれば二人は夫婦だとわかった。
『あなたが窓側に座って』
『いいんですよ。君が窓側で。この汽車の車窓はそれはとても美しい。いつか君に見せたかったんです』
二人は譲り合いながら席に着く。
その後、女性が
『やっぱり貴方が窓側に座って。私、眼鏡を忘れてしまったの。』
『そうですか。でもこのままでいいですよ』
『それではせっかくの車窓が勿体ないわ』
『大丈夫です。貴方越しに見る景色もすばらしいです』
そういうと女性はありがとうと小さく答え男性はそれにまた小さく頷いた。
『次は木天蓼〜木天蓼〜』
汽車はまた大きく汽笛を鳴らし『シュウシュウポウポウギィィィ』
よくこれだけ大きな汽笛やブレーキの音に今まで気付かずにいたものだ。
『木天蓼』駅では鍬を持ったどっしりとした体格の猫が乗車してきた。
靴は泥に塗れ衣服には乾いた砂が付着していた。
背には大きな籠を背負いどっしりどっしりと歩き荷を降ろした。
ふぅふぅと息を整えている。どこか懐かしい気持ちを覚えた。
昔、祖母の匂いは藁や田の土の匂いがした。
それはとても安らぐ懐かしい匂いだった。いつも優しく団子をよく作ってくれた。
『ふぅ朝も昼も夜もいっぱいいっぱい働いた』
そう言うとどっしりとした猫は腕組をして瞼を閉じた。きっとずっと先の駅へ行くのだろう。