「・・・あの・・・」
梅の香りを漂わせ彼女が私の前に姿を現す。
「・・・どうぞ・・・紅桜は菊の間にいます。」
私は彼女の言われるままに草履を脱ぎ店の奥に足を運ぶ。
店内はいくつもの部屋に仕切られ、多くの遊女たちがごった返している。廊下は明かりが燈され、昼と見違えるほど明るい。
「こちらです。」
彼女は階段を指差し私を見つめる。
階段は勾配がきつく、そして暗い。遠い。
「この上ですか?」
私がそう問い掛けると彼女はコクりと頷く。
店の二階は一階とは打って変わり静まりかえっている。人っ子一人姿を見せない。