結衣子は、ふと、思う。
自分は、この母と妹に出会うことによって、何か、大切なことをしなければいけないのではないか?
それは、幼少時に、かわいい、かわいいと呼ばれて育った記憶から、病により無くしてしまった美貌へのコンプレックスから立ち直る、一つの方法でもあった。
他に、自身を献身的に夢中にさせることで、姑息な関わりに陥ることを免れようと足掻いた。
幸い、福祉面には、常に人手が足らず、受け入れて役割をくれた。
結衣子は、学校や友人との楽しい関わりと、社会貢献の手伝いをすることによって、浅ましい家族の影響を最低限に止めた。
何故ならば、過去に、この母に一族が意見したことがあるが、頑として本人は受け入れなかった。 と、いうか、そういった常識が通じなかった。
父親は、この親族会議で、ただ、恐縮し、妹は、世の中を斜めに見ていたので、常識的な集まりに入っていくのは、いつも結衣子の役目だった。
父親の不甲斐ない部分は、公務員として、一から社会的な地位を築いた中で育まれたのだろうと、結衣子は理解していた。
常識はずれな妻をめとってしまい、かろうじて、対面を保ったものの、凄まじく捻れてしまった人の心というものは、実は、何をもってしても【治る】類いのものではないのだと、そして、それでも、人は、そのような悪と同化してはならないのだと、結衣子は、実の母親であろうが、冷静に人を見て、その対処を考えるような人格へと成長した。
家庭環境とは、人格を【調教】する部分を含んでいる、一種の危険なゾーンでもあることを、結衣子は、体験共に情けない思いをしながらも、身につけていったのである。
要は、この人物に何を言っても無駄だ、放っておくしかないと、自らの実母をあきらめていたのである。
そのプライドの高さが、このような家庭環境にあって、悪影響を受けずに済ませた。
同時に、結衣子は、家庭で【甘える】という行為をも、あきらめていたのである。