日も昇らない明け方、タナーおじさんが怒鳴り声で起こされた。
「ヨーク!ヨーク!起きろ!」
「はいっ!」と返事をして、僕は飛び起きた。
外から歌やら音楽やらが聞こえてきた。僕は窓を通して外を見ると、サーカスの人達が曲芸・軽業・演奏の練習をしていた。
タナーおじさんが怒る訳だ。
僕はシャツを着て、床に放り出された上着を引っつかむと、急いで外に出た。
「すいません!練習を止めて下さい!タナーおじさんが怒ってますし、動物達が興奮してしまいます!」
僕の一言で、サーカスの人達はピタリと動きを止めた。
「練習ならもっと向こうでやって下さい」
この一言で、サーカスの人達は遠くで練習する事になった。
誰も文句は言わなかったが、悲しい気持ちになった。
「僕はタナーおじさんに言われて仕方なくやってるんだ」
そう言いたかった。だけど、どうせ誰も理解してくれないんだ。
僕の立場なんて…誰も。
「ヨーク、悪い」
不意に声を掛けられて、僕は驚いた。
声のした方に振り向くと、イーディン・ローがテントから顔を出していた。その顔は、寝起きの顔だった。
朝食の時、やっぱりタナーおじさんは愚痴を吐いた。
「…全く迷惑だな。常識の無い奴らだ。朝からあんな騒ぐとは、恩を忘れてるんじゃないのか?」
「あ…なんか、今日は町でサーカスの公演があるらしくて…それで練習をしていたみたいです」
さっき、イーディン・ローが教えてくれたのだ。
「だから何だ?」
「えっ?」
タナーおじさんは冷たい口調で、僕に言い放った。
「あんな図々しい奴らの都合を、何で考えなきゃならん!お前も奴らと同じようなものだ。くだらん事を言わなくていい!」
「…はい。すいませんでした」
気を損ねたのか、タナーおじさんは食事を止め、残飯をハーブのエサ皿に入れた。
タナーおじさんが階段を上がって行く音を、僕は黙って聞くしか出来なかった。
僕は僕の立場を再認識した。
「どんなに孤児院から離れても、孤児は孤児…」