『魔人の鐘』なるものを両手で持ち上げ、そのまま走り出した。
「待て!この野郎!コケにしやがって。」
すぐさまフェレットもその後を追いかける。
しかし、この男ダグラス・ミックハイムは、走りにおいては絶大なる自信を持っていたし、事実、彼を追いかけて捕まえた者は過去に誰一人としていなかった。
彼と並走できるようなことを許された者が果たしてこの世に何人いるのだろうか?
無論、フェレットとてそれは承知の上であったが、ほんのわずかの希望も持っていなかったといえば嘘になるだろう。
勝負にならない追いかけっこが終わったのは、それから暫くしてのことだった。
「よう、遅かったな。」
息一つあらげずに、しかも両手にはしっかり『魔人の鐘』を抱えたダグラスがそう言う。
「ほっ・・とけ。」
肩で息をしながらフェレットはやっとのこと声を発する。
「あれが旧ドルワイア遺跡だ。」
ダグラスの指差した方向には、蔓で覆われた古びた六本の柱と、その奥の黄土色の古い建物が、さも荘厳そうに建っていた。
「いかにも何かありそうだな。でも、入っていいのかこんなとこ?」
「ああ、実証済みだ。」
ダグラスが、両手の塊をみて言う。
「あのな〜。」
フェレットはため息をつき、続ける。
「というより、噂ってのは誰のだよ?」