「翔太はほんまお前に
優しいやんなあ。
まあしゃあないか。
あいつはお前のこと
ほーんまにすきやもんなあ」
和樹は一人で納得して笑ってた。
さっきまでの喜びは消えた。
あたしの胸の中で
暗く重い音が鳴る。
ああ、そっか。
あたしは
和樹に彼女がいた
そんな噂を聞いただけでも
あんなに胸が痛んだのに
和樹にとって
あたしが誰に好かれたって
誰と恋に落ちたって
何でもない、
やっぱり平気なんや。
あたしは黙って空気を吸い込む。
和樹は何も気付いてはくれへん。
「なのにお前中学ん時、
あいつの告白が嘘やと勘違いして
流したんやろ?」
和樹の笑い声は風に流れて
あたしの耳に、あたしの胸に
悲しいくらい優しく入り込む。
違う、勘違いじゃない。
あたしはあの時
わざと流したんや。
和樹が好きだっただけじゃない。
翔ちゃんとの関係も
壊したくなかった。
「ほんまかわいそうな翔太。
俺、あいつのあのすねた顔、
いまだにめちゃ覚えてんもん」
あーあ、今ここで
和樹と一緒に笑えたらなあ。
いまだにあたしはこんなことさえ
思い出話として笑えないんか。
「何すねてんの?」
なのに和樹は気付かへん