「だが、その子供はなぜそんなことができるんだ?領域を無視してラディスパークへ直結する『道』を作るなど、支配者にだってできるかどうか……。」
ジーナはハッと何かに思い当たった顔をすると、素早く周囲を見回した。そのジーナの様子に、一同に緊張が流れるが、相変わらず広場は騒がしかった。何も起こる様子はない。
目を光らせたまま黙り込んだジーナに、美香は恐る恐る声をかけた。
「どうしたの、ジーナ。何か気づいたの?」
「……罠かもしれない。」
その一言は全員の頭の中に嫌な後味を残していった。皆、思い浮かんだ人物は同じだった。
「……覇王ならやりかねないな。」
「ああ。舞子の想像の中じゃ、奴が一番のワルだからな。」
王子と耕太が珍しく意見を一致させた直後、美香は広場の端から、じっとこっちを見て立っている一人の少女の視線に気づいた。
その少女の容貌が目に飛び込んできた瞬間、美香は心臓が止まるかと思った。
――舞子だった。
「……あ、」
美香と目が合った瞬間、舞子はびくりと小さな体を震わせた。美香は目を大きく見開いたまま、わずか九歳の実の妹の姿を、ただ呆然と見つめていた。黒髪のおかっぱ頭、泣き濡れた丸い瞳、いつも好んで着ていたくまのTシャツ。そこには、あの日の午後に別れた時のままの姿の舞子が立っていた。
舞子だ。舞子がいる。頭の中では、「早く近寄って確かめて!家に連れて帰るのよ!」と、金切り声で叫ぶ自分の声が聞こえたが、美香はぼんやりしたまま動けなかった。
この時美香はすっかり忘れていた。ラディスパークの主要時間が、すでに三年の時を進めているということに。
美香はふらふらと舞子の元へ近づいていった。一歩一歩、固い地面を確かめるように歩いていく。背後から王子が何か言う声が聞こえたが無視した。それが自分の名前だと認識できないほど、美香は舞子に没頭していた。
舞子は逃げなかった。それどころか、急に顔をくしゃくしゃに歪めると、わああ!と洪水のように泣きはじめた。周りの大人たちはびっくりして舞子を見た。ああ、この光景はどこかで見たことがある……。妙な既視感を覚えたが、それがどこであったのか、はっきりとは思い出せない。舞子の泣き声は大きい。それこそ、緊急事態を知らせるサイレンのようで、美香はその音を頼りによく舞子を探し当てたものだった。