友達と仲の良さそうに歩いてくる三人の姿があった。
彼女の方も、僕に気付いたようだ。
彼女が駆け寄ってくる。
「エイお兄ちゃん?」
その言葉に僕はまだ幼かった頃のことを思い出した。
コウに、いつもくっついて来ていた可愛い女の子。
いつから会わなくなったのだろう、思い出せない。
「いくちゃん?」
いくちゃんがにっこり笑う。白いきれいな歯をのぞかせている。
「久しぶりだね。」
いくちゃんは嬉しそうだ。
彼女の友達は、気を使って、用事があるからといって帰って行った。
今、ふたりきりだ。
なんとなく手持ち無沙汰で、僕は喫茶店へと誘った。
そこはお気に入りの店で、趣味のよい音楽と、アンティークな椅子とテーブルがある。
和んでいる空気のなかで、僕は気になっていることを聞いた。
「最近、大丈夫? 家にあまり帰ってこないってコウからきいたけど…」
「昨日帰ったよ。お兄ちゃんにも会ったよ。」
「お兄ちゃんからなにかきいてるの?」
「いや、べつに。ただ、コウがいくちゃんのことを、心配していたから…」
軽くうつむく彼女に、何と声をかけてあげれたらいいのか、分からない。
「僕さ、今日失恋したんだ。告白はしていないんだけどね…」
好きな相手を僕は言えなかった。何となく、コウに負けたようで悔しかったのだ。
「わたしも同じ。」
「お兄ちゃんには言えなかったよ。親友の彼氏から、恋愛の相談を受けるうちに、好きになってしまって…。それであきらめたの。」
「そっかぁ…。」
なんだか傷のなめ合いみたいになってしまった。
一つしか歳が違わないのに、幼く見えた。
(きっと淋しいのかな。僕と同じだ。)
日が暮れて遅くなってしまったので、家まで送っていくことにした。
帰り道、自然に触れた手が重なり合った。
家に行く前の角で足をとめた。
そっと彼女の肩を寄せた。やわらかな感触と、ジャスミンの香水の香りがする。
頬を片手でなぞりながら、唇を重ねた。
唇を離したあと、またキスをした。彼女の唇は甘く、しっとりと濡れそぼっていた。