夏の、温かい風が頬にあたる。
それと一緒に、あの夏がよみがえる。
あの時は、あんなにも時間が短く感じたのに今では
一日が何年もかかっているように感じてしまう。
あの時には、あんなにもうるさく感じた蝉の声も、今では
嘘のように遠くに聞こえる。
まだ、「彼」が残っているような気がして、見渡してみた。
でも、そこにあったのは古びた滑り台と、二つのブランコと木々達だけだった。
私が今どんなに目を凝らして見ても、どんなに声を枯らして彼を呼んでも、
何も見えなかったし、何も聞こえなかった。
あの夏のある日、二人の身長を刻んだ木が風にのせて言った。
「彼は、死んだ。」
と。
小さく吹いた風が、二つのブランコを、
まるで誰かがのっているかのように…
小さく
揺らした。
つづく