千鶴子は、焦っていた。
なぜ、結衣子は、からだを壊さない?
ずいぶん、遠い昔、不倫がうまくいき、つい、誰かに自慢したくなった。
相手は、結衣子の親友の父親である。
近いうちに、二人の生活を築ける目処もついた。
本来、舞台で歌を歌いたいような千鶴子にとって、この嬉しい秘め事を黙り続けるのは億劫だった。
ちょうど、そこに、不倫だと聞けば、嘆き悲しみそうな、親から見ても、清廉潔白そのものの実娘がいた。
千鶴子は、その間違いない生活ぶりも壊したくなった。
結衣ちゃん、お母さん、相談があるの
いつになく、優しく結衣子に声をかけた。
一通り、まだ、中学の子どもに経過を話した。
千鶴子は、すっかりヒロインだった。
で、お父さんと別れたいんだけど、結衣ちゃんは、どう思う?
すっかり気分に乗って、娘の顔を見た。
次の瞬間、千鶴子は、欲しい答えを得た。
お母さんの良いように
それだけ言うと、結衣子は千鶴子から離れ、そして倒れた。