舞子にはふわふわと夢見がちなところがあった。何か新しいものを想像することが大好きだったし、だからこそ美香が止めるのも聞かずに、しょっちゅう“子供のセカイ”を開いていた。
ただ、舞子は特殊な力を持っている。舞子の“子供のセカイ”は現実になるのだ。
大人は見ることも触ることもできない。子供は見ることができるが、触ることはできない。この原則をくつがえし、子供限定だが触れるようにしてしまったのが舞子の力だった。
美香は舞子自身と周りの子供たちを助けるために、いつも舞子の想像物と戦ってきた。舞子の想像は大人しい性質のものでさえ、どこか決定的な部分が歪んでいる。舞子の強大すぎる力が、舞子の想像物を狂わせるのだ。
美香はなんとか冷静さを保ちながら言った。
「舞子は今、ラディスパークにいるわ。それなのに魂の分け身は相変わらず存在してる。この二つにまったくつながりはないの?」
「ない。言っただろう、あれは舞子の心そのものではないと。舞子の心の、“子供のセカイ”に焦がれている部分が、漂い出して形になったのが魂の分け身だ。舞子は自分の魂の分け身がいることさえ知らないだろう。」
「じゃあ……、魂の分け身が持つ性格とか感情は、本物ではないの?」
美香にとって一番重要なのはそこだった。舞子に振り払われた手は、相変わらずじんじんと痛んでいる。そんなに強く弾かれたわけではない。それなのに、じんじんと痛んでいる。
明快に説明していたジーナは急に口ごもり、ちらりと王子の方を見た。
王子はその視線に気づくと、小さく溜め息をこぼして言った。
「……わかった、僕が言うよ。」
それから、王子は真剣な表情で美香に向き直った。
「あれは舞子の心じゃないけど、舞子の本心だ。舞子の心の性質を、とてもうまく真似たドッペルゲンガーなんだ。」
美香はスッと血の気が引いた。まるでトン、と肩を押され、遥かに深い崖の下に突き落とされたような気分だった。
あれは舞子の本心。「さわらないで」と淀みなく言い切った舞子。睨んだ目。明らかな憎しみを込めた――。
「……っ。」
美香は、歯を食い縛った。
(今更じゃない。舞子は私を恨んでいたわ。私がいつも舞子の行動を制限して、自由を奪っていたから。……例えそれが舞子を救うためだとしても、あの子はまだ九歳なのよ。わかるわけないじゃない…!)