開かない箱
特に目立った柄もなく
あるとするなら
蓋にひとつの鍵穴
鍵は作られていない
鍵穴を作ったあとで
鍵を作るのを
忘れてたことに
気づいた
あぁ もう
決して
開けられることはない…
作った本人が呟いた
そんなに嘆いて
中には一体 何が
入っているのだろう?
大泥棒がその
技術をもって
箱を開けた
そこにあったのは
懐中時計が ただひとつ
大泥棒にはわからない
他の誰にもわからない
作った者しかわからない
大切なもの
針は止まったままでも
その針が指すは
あの日の時刻
忘れないようにと
箱にしまったのに
開けられなくなって
忘れるだなんて
そんな
馬鹿な話があるか
大泥棒は
笑みを浮かべて
箱を閉じた
鍵は開けたままで