『圭護、明日お前はヘリウムガスを使え』木曜日の朝、教室に入ると太郎に言われた。
『な、何でヘリウムガス?』
バラクラバにサングラスにヘリウムガス…コントみたいだ。
『昨日のお前の演技を見てはっきりした。今のままじゃ絶対にばれる』
だったら降板させてよ…。
『演技が苦手だから…ごめん』
『いや、演技より声の問題だ。お前の場合は裏声でも結構わかりやすい。それに、お前は奈々さんと奇跡的にも会話をしているから奈々さんもお前の声は少しでも覚えているだろうし』
『ヘリウムガスって、ドナルドダックみたいな声になるやつだよね?』
『そうだ。ちなみにドナルドダックは愛称で、正式名称はドナルド・フォントルロイ・ダックだ』
そんなことどうでもいいから。
『そんなだったら別に無理してでなくてもいいと思うけど』僕は小さな反論をした。
『いや、二人より三人の方が奈々さんも怖がるだろ』
そんな理由で…。
『ヘリウムガス持ってないけど』
『大丈夫だ。明日までに用意する』
ぶっつけ本番かよ…。
『…わかった』
作戦は失敗するだろう。九十九パーセントの確率で。まあ、失敗してもらいたいが。