そっと最期の鍵をかける
二度と来ることのない
思い出の部屋はガランと冷たい
何度となく笑った千の日も
幾度となく泣いた千の夜も
この部屋に残して鍵を閉める
窓から見た景色も
一緒に歩いた道も
街路樹の色と共にいなくなる
床のへこみも
ドアのたてつけも
今が一番愛しくて
変化に怯えて足がすくむ
知らない人が思い出の場所に入ることを考えただけでとても悲しく
嫌なこともたくさんあったはずなのに
もう誰にも入られたくない
いつでも戻れる保障が欲しいのに
いつか私の知らぬまに
次の誰かが住みはじめたら
あの部屋から見ていた
景色は
もう別の人のもの
私の思い出は
私の部屋の
私だけのもの
何度となく笑った千の日も
幾度となく泣いた千の夜も
この部屋に残して私は静かに鍵を閉める