ビラを一目見た女性は、ぽかんと口を開けてゆっくりと美香を見上げた。美香もほぼ同時にビラから視線を上げる。間近で女性と目が合った。女性のビラを持つ手がぶるぶると震え、悲鳴の形に口が丸く開いた瞬間、美香のすぐ横を素早く走り抜けた影があった。
「ぅぐっ!」
ジーナに剣の柄で鳩尾を突かれた女性は、ゆっくりと倒れて気を失った。
「ジーナ!」
「……仕方ないだろう。叫ばれたら迷惑だ。治安部隊――さっきの若者たちが戻ってくるかもしれんからな。」
非難するように名前を呼んだ美香に対して、ジーナはしれっと答えた。耕太と王子が駆け寄ってくる。
「おい、あんまり人のいるとこはまずいぜ。早く逃げよう!」
王子は素早く周囲に視線を走らせた後、うつむいたまま耕太の袖を引っ張った。
「広場の人が僕たちを見てる。早く光の子供の力で目眩ましか何かしてくれないか……耕太。」
(あ、名前…。)
美香は嬉しい驚きと共に王子を見つめたが、王子と目が合うとばつが悪そうに逸らされてしまった。どうやら彼は彼なりに耕太を仲間として受け入れつつあるらしい。
しかしそんな状況でもなく、広場の人間がこっちを指差したり、そそくさと離れたりし始めていたので、耕太はそちらに気を取られるあまり、まったくもって気づかなかった。
「わかってるよ、うるせぇな!えーと、目眩まし、目眩まし……。」
耕太は何かアイディアは浮かばないかとあごに手を当てて考えていたが、その時間があまりに長いのでジーナに肩を小突かれた。
「もったいぶってないで早くしろ!」
「もったいぶってないッスよ!ああ〜くそっ。こういう時に限ってなんも浮かばねえ……。」
頭をがしがしとかき始めた耕太に、美香は何も助言することができなかった。美香だって何も想像することができなかった。いや、以前ならできただろう。だが、耕太を助けるための犠牲として想像力を失ってしまった美香にとっては、簡単な想像をすることさえ酷く困難になってしまっていた。
唇を噛み締めた美香を、王子は複雑な思いで見つめながら、ふと考えた。
(そういえば、美香ちゃんはどんなピンチに陥っても、すぐに冷静に、的確な想像をして僕たちを助けてくれていたな……。あれはやっぱり誰にでもできることじゃなかったんだ。美香ちゃんは思っていたよりずっとすごい子だったんだな……。)