――「怪我してねーか?」
男は振り返りレンに尋ねた。
レンは目の前で一瞬にして消え去ったアバドンの一味に呆気にとられていた
「ほっんとに変な奴らだなあー
遺体も残らず消えるんだもなあ」
「…あなた…魔術士…?」
レンと同じように街にいた人々も驚きと恐怖の混じった表情で彼を見つめている
「んーまあ…そんなもんかな?
それよりそれ、重そうだしなんか危ないし送るよ」
彼はにっこり笑うとレンの腕から荷物を引き取った
――リル島警察署拘置所
「記憶がない?!!」
「ああ、あの船の海賊全員がなんで気絶してたのか覚えてねーんすよ」
ぶっきらぼうに拘置所の男が答えた。
ここの空気は陰気で息が詰まりそうだった。
「まあ気絶で頭ん中が混乱してるのかもしれねえですがね、どうやら“忘却”かなんか記憶呪文をかけられたようでねえ」
「忘却?!!」
「まあこちらとしては長年追っかけてた海賊が捕まえられたんでありがたいもんですがね」
「記憶操作の魔術は容易いものではない…
人の“中”に入りこむというのは訓練が必要。
しかもこれだけの数を一度に操作するとは…かなりの鍛錬を受けた者のようだな」