淳の母親が帰ってしまってから、約三時間が経とうとしていた―\r
七星や、病院に駆け付けた、店の従業員達と、会話をする事も無く、五分おき位に、白い壁に掛った時計に目をやるだけだった―\r
ICUの扉は、ピシャっと閉まったまま、開く事は無かった。
病院の中で、使えない携帯電話を見た時、麗華と茉莉子に電話しなくては!と思い立った。
私は、入口付近の受付の前に、公衆電話が三台程、据え付けて有った事を思い出した。
先ずは、麗華へ―\r
呼び出し音は鳴らなかった。直ぐに留守番電話に切り変わった。
私は、麗華の留守番電話に、七星から電話が有って、淳が事故で入院したと、用件だけを録音した。
コールを一度もせずに、留守番電話に切り変わった事で、まだ、麗華が、フライトから戻って居ないのだ―と察した。
次は、茉莉子に―\r
四回呼び出し音が鳴り、「はい、香里?」
と何も知らない、茉莉子の陽気な声が受話器の向こうから、聞こえた。
「うん、今、大丈夫?」
「うん、家だから。どうしたの?」
「淳がね・・・、今朝、事故に遭って・・・。トラックにはねられたのよ・・・。」
私は、言葉を詰まらせながら、何とか、そう一言、茉莉子に言い終えた―\r
「え・・・?淳が事故・・・?」
私と同様、茉莉子も、パニックになっていた。
「うん・・・。今朝ね、淳の彼女から電話貰って・・・。ほら、知ってるでしょ?いつか、クラブで逢った、七星って子。」
「今、香里は、どこに居るの?病院?家?」
「病院・・・。淳は、集中治療室に入ってて・・・。まだ、私は顔を見て無いんだけど。淳のお母さんも来てたんだけど、さっき、帰ったの。」
「じゃあ、淳は大丈夫なのね?」
実の母親が帰ったと聞いて、茉莉子は、淳の容態は落ち着いて居るのだと、思った様だった。
「ううん・・・、内蔵の損傷が酷くて、今は、予断を許さない状態なの。意識も無いみたいだし・・・。」
「じゃあ、どうして、おばさん帰っちゃったの?危篤って事でしょ?淳は。」
「うん・・・。それは、色々有って・・・。私、一人じゃ不安だし、落ち着かなくて・・・。茉莉子、急だけど、今から病院へ来れない?」
「大丈夫だけど・・・。淳の事も気になるし。病院、どこ?」
茉莉子が、来てくれると聞いて、私は、何故か少し、心が軽くなった気がした―\r
淳の母親から聞いた話も、自分だけの胸に秘めて置くのは、辛かった―\r
恵比寿の大学病院と告げて、駅から近くだから、直ぐ分かると、茉莉子に言い、私は受話器を置いた。