美しい線を描いた月の魔法陣。
ゼルの主のためのそれと比べ、はっきりしていておぞましさもない。
その中心に、キアの女従者が立っている。
月の女神のための形代がわりだ。
女従者の唇が、舌が、喉が、月の女神の言葉を
紡ぎ出す。
「…冥土への協力か……
………断る」
「……でしょうな」
ゼルは最初から期待などしていなかった。
だが、意外にもキアが
噛み付いた。
「何故です?魂喰いの力は説明した通りです。
それに、死のパシリたるゼルは大きく負傷してます。
光のパシリは喰われてしまった。光の追加増援を待っていては、冥土が
無実の罪で消されるやも知れないのですよ?」
「冥土については私の関知するところではない。
それに、本来私は冥土を縛る立場だ。
…世界が滅びれば、
月の存在も危うかろう。
…しかし、それもまた
『流れ』
だ。
私は、『流れ』に逆らわない。
それが月なのだ。
『流れ』が、
時を進めて月を満たし、また欠けさせていく。
それに逆らうは、月を否めるに等しい」
「では、黙って主が消えるのを見ていろと!?」
キアの語尾がささくれ立つ。
「僕を創っておいて、
その後は無責任な
放置プレイですか…!」
「…自ら、それを欲したのであろう」
即座に切り返され、キアは言葉に詰まる。
ゼルが割って入った。
「おそらくは…貴女も、
手出しできる立場にないのでしょう…純粋に。
自ら律したものを
ねじ曲げていては、
単純に示しもつかない
でしょうし」
「死の使いは物分かりが
良いな」
「恐れ入ります。
では、話のベクトルを
ずらしましょう。
…他にこの事態を打開できる策があれば、
是非この愚かしい
死のパシリにご教授願いたい」
沈黙が部屋を一時、支配する。
だが、すぐにそれは
月の女神の言葉で
解き放たれた。
「厭味な奴だ。
だが、いい聞き方だな。策は…ない事もない」