肌とねこ7

KSKくま  2009-12-08投稿
閲覧数[315] 良い投票[0] 悪い投票[0]

今関さんの隣をとぼとぼと歩き、一言、二言会話をしただけでマンションのロビーに到着した。押し黙った今関さんの気迫に圧された部分が大きかった。
ロビーに入って正面のガラスが閉まったところで今関さんは指をさした。
その先には、黒いジャケットを着た男が走って行く姿が見えた。
背格好からいうと例のストーカーだ。

私は小さく「あっ」と漏らしたキリで、それ以上言葉にならなかった。

「三百メートルくらい前から付いてきてたね。気付きました?」
今関さんは優しい声で言った。私は首を横に振った。
気付くどころか、今関さんの緊張した面持ちをみながら、内心でその小心ぶりを不信に思っただけだった。藤堂の時には一度だって気付かなかったし、大袈裟に騒いではいたけど、勘違いだという可能性も私の中で浮上し始めていた。
だからこそ、なおのこと怖かった。
「若い男みたいでしたね。でも三十は超えてるくらいですね」
今関さんは淡々と相手の容姿を思い出して口にしていた。
多分、私も加わって相手をよく思い出さなければならないのだろうが、それをする気にはなれなかった。今関さんの話からも耳を逸らせたかった。
「あの・・・すいません」
何がすまないのかわからなかったが、口からその言葉が勝手に出た。
今関さんはそれで悟ったらしく、背中に手をまわしてエレベーターまでエスコートしてくれた。

部屋に着くまで二人とも無言だったが、玄関先で今関さんは小さく「それじゃあ、また明晩」
と努めて明るく発した。そのお陰で少し気が楽になった。

何もなければ、明日からは一人で帰ろうとしていた矢先のことでスゴく嫌な気分になった。
友達を裏切ったからだとか、彼氏がいないからだ、とか。こういう落ち込みが激しい時には自分ばかりを責めてしまう。
仕方ないことだけど・・・。
ただ、今関さんに本当に迷惑をかけてしまっている自分がどうしようもなく情けない。

深く沈んだ気持ちでいっぱいの私を気にも止めずキックは目の前を横切ってエサ場に向かった。

キックが黒猫じゃないのがせめてもの救いだった。

つづく・・・

i-mobile
i-mobile

投票

良い投票 悪い投票

感想投稿



感想


「 KSKくま 」さんの小説

もっと見る

ノンジャンルの新着小説

もっと見る

[PR]


▲ページトップ