浄化を司る精霊は、ある学校を見ていた。その学校だけをずっと見ていた。外見は普通の中学校なのだが、何かが違う。精霊はその異変にすでに気付いていた。だからその中学校だけを見続けていた。精霊としては今すぐその中学校に降臨したい気持ちでいた。なぜならば、その中学校にはまもなく災難が襲うであろう、と感じていたからである。それを救うことが出来るのは、もはや精霊の力のみであろう。しかし、精霊は誰かに召喚されない限り姿を現すことは出来ない。精霊は待つしかなかった。誰かが自分を召喚してくれると信じて待つしかなかった。
一体、なぜ精霊はこの中学校が災難に見舞われると分かったのだろうか。その答えは簡単である。しかし、答えは簡単でもその問題はあまりにも難しいことである。その問題とは、いじめだ。本来ならばあってはならないことなのだが、いじめなんてどこの学校でもありがちなものだ。それがどうしてこの中学校に限って全体的な災難となるのだろうか。実は、いじめ以前の問題にこの中学校そのものが挙げられる。先生と生徒の関係はもう最悪の状態。公立の普通の中学校なので、さまざまな生徒たちが集まっている。その生徒同士の関係も目茶苦茶である。普通の中学校ならば、ここまではひどくならないだろう、と誰もが思えるほどのおぞましい危険性を秘めている、もうこれは学校とは思えない。というわけで精霊はこの中学校だけを見ているかといえば、そうでもない。精霊がこの中学校に目をつけている理由は他にもある。本当に精霊が恐れているのは、この中学校の仕組み以上にその今はまだ分からない他の理由である。
秋もそろそろ終わり、外は寒くなってきた。そうだというのにこの学校の窓ガラスはほとんどない。教室の中の気温と外の気温とは比べても大差はない。風が吹けば当たり前のように教室の中を通り抜ける。寒くなってくるとそれが辛い。
「おい先公、さっさと窓元に戻せや!」
自分たちが壊しておきながら、教室にいるわけの分からない連中の一人がそう言った。普通の生徒にとってもこんな奴らが同じ教室にゴロゴロしていてさぞかしストレスがたまることだろう。そしてそのストレスは無意味な刃へと変わり、その矛先は関係のない弱い者に向けられる。これがいじめである。この中学校では、変に突っ張っているわけの分からない連中はいじめをしない。いじめている者の大半が普通の生徒だったり優等生だったりする。