結衣子の妹の房子は、実に風変わりな子どもだった。
大変気性が激しく、気に入らないと泣き叫んで、周囲の手を煩わせた。
その内、うるさいので、泣き叫んで欲しがるようなものは、与えておくような扱いを受けた。
子どもには、そんな事情は判らない。
泣き叫べば、世の中は自分の思い通りに鳴門いう風に理解したようである。
この五月蝿い子どもの守りが、幼少時の結衣子の仕事だった。
結衣子は、祖父に連れられて出かける時以外は、二歳半を過ぎたばかりなのに、房子を背中に結ばれ、そうでない時は、椀に盛られたご飯をスプーンで食べさせた。
それなのに、同時に人形を貰うことがあれば、決まって、この妹は、姉の持ち物を欲しがった。
姉である結衣子の留守には、自分の人形と姉の人形の両方をそっと抱いた。
そして、日がたつごとに、姉の人形の方が自分のもののように思えてきて、姉が返すように求めると、烈火のように怒った。