「ハァッ…ハァッ……くっそ…!何でこっちの居場所がわかるんだよ!」
額の汗を散らしながら叫ぶ耕太の肩に、やや呼吸の乱れたジーナが手を置いた。
「ハァ……叫ぶな、声は透明にはならないだろう?奴らになおさら私たちの居場所を教えるだけだ。」
「じゃあどうするんスか!」
「さっき私が言った通りだ。ひとまずその辺の家に匿ってもらおう。……できれば光の子供の魂の分け身の家ならいいんだが……。」
そう言ってジーナは、へたりこんでいる美香の腕を取って立ち上がらせると、疲れた様子の王子に大丈夫かと声を掛けた。
「……僕なら平気、だよ。それより、もし危険な家だったらどうするつもり?」
「まあ一か八かだな。できるだけ『可愛らしい』感じの家を選ぼう。」
ジーナの口から『可愛らしい』などという単語が飛び出したので、思わず美香は呼吸を整えるふりをして口元に手を当て、笑いを押し殺した。一方、耕太はそんな気遣いができるはずもなく、ぶはっと盛大に吹き出したため、またいつものようにジーナの鉄槌を食らう羽目になった。
「えーと……それで、どういうことなの?家が危険だとか、それってどういう意味?」
相変わらずにやけてしまう口を押さえたまま、美香は王子に尋ねた。王子はその美香の様子に、笑いが伝染したのか、くすりと少し笑った後、説明してくれた。
「ラディスパークは見ての通り、街でできているだろ?この家々の一軒一軒が、それぞれ一つの領域なんだ。」
「……は?わかるように説明しろよ。」
耕太は訳がわからん、といった顔だったが、美香にはなんとなくわかった。
「つまり、光の子供が想像する領域が、一つの家を作り上げてるってこと?」
「うん。光の子供が一つ想像物を思いつく度に、家は一つ増える。想像物は未完成だから、家の中でゆっくりとその形を確定していく。やがて形が整ったら家の外に出られるようになるし、光の子供があまりその想像物を考えなくなり始めたら、領域はラディスパークの外に出て、忘れる強さが増す度に中心から外へ離れていくんだ。」
この説明には耕太も納得したのか、「ふーん」と首をかたむけて聞いている。
「そんで、危険な家っていうのは何なんだよ?」
「領域は楽しいものばかりじゃない。光の子供はとても純粋だから、純粋だからこそ、とても残酷な想像物も作り上げてしまうものなんだ。」