(佐代がいなくなると、すぐ思い出す…)
忘れたいのに、忘れられない。
なんで言わなかったんだろう?
あの時ちゃんと言っていれば、こんなに苦しんだりしなかったのに…
私には、憧れている人がいた。
佐久間尚人君、一つ年上。すごくかっこいいわけでもないし、頭がずば抜けていいわけでもない。情けないことに運動も、どっちかといえば苦手なほう。
ただ…
本が大好きで、優しい人だった。
…彼は、小学校を卒業すると同時に、遠くへ引っ越した。
「美帆ちゃん。俺、引っ越すんだ。だから美帆ちゃんとおんなじ中学には行けないんだ」
「……。」
私は、何も言えなかった。なんて言えばいいのかわからなかった。ただ彼ともう会えないんだってことが、すごく寂しかった。
「美帆ちゃん。俺、小説家になりたいんだ。
でもね、本読んでるだけで小説家になれるわけないから、いっぱい勉強しようと思う。
そしたらこっちの、東京の、美帆ちゃんのいる東京の大学に行こうと思ってる。」
だから待ってて、絶対戻ってくるから。
そういって私の頭を撫でて、彼は行ってしまった…