火葉を追い出した後、若菜は早く動く心臓を抑えるように胸を押さえた。
まさか、写真のことを問われるとは予想外だったのだ。
「まだ私も…立ち直れてない……」
写真を胸に溢れる涙を止められない。
彼らの前で平静を装うことは出来ても一人になると弱かった。
「緋狩《ひかる》…っ」
彼女にとって少年の存在は大きかった。
未だ消えることのない後悔と無力感と空白が小さな嗚咽と共に涙となって溢れた。
本鈴を告げるチャイムが鳴り響く。
早稲田は屋上にいた。
勿論、普通の生徒はこの時間は授業中である。
「気に食わねぇ…」
そう呟くのは勿論火葉のこと。
「『IC』のくせに何で…」
あんなに真っ直ぐな眼で、あいつと同じ眼で俺を見てくる…っ
性格も姿も、『彼』とは違うのに眼だけが『彼』と同じ眼をしている。
火葉を前にするとどうしても動揺を隠せない。
中途半端に似ているくらいならいっそ生き写しでいてくれた方がずっと楽なのに。
手を振り上げ、フェンスに叩きつける。
勢いよく叩きつけたせいか右手はジンジンと熱を持って痛んだ。
そしてぐっと血が滲みそうなほど拳を握りしめた。