千鶴子と房子は、結衣子のものをクスネルことを常習する内に、結衣子の一人息子を、自分たち二人と共に居させたくてたまらなくなっていった。
房子は、幼少時より、近隣の子どもを呼びつけて、自宅の箪笥に閉じ込めて泣かせたり、長じて生徒を持つ立場になって、気に入らない生徒は、窓際まで担いでいって、窓から突き落とすと脅迫した。
ゆかりという子どもは、十年たっても、そのトラウマから抜け出せずにいる。
それを笑っていられる性格に成長してしまったのは、幼い頃より怒ると手のつけられない気性をもて余した彼女の周囲の大人たちの責任でもある。
その房子が嫁にもいけず、当然、子どもが授かることはなかったが、結衣子の一人息子である甥には関心を強く示した。
幼い頃より、姉の人形が欲しくて勝手に抱いていても、誰も叱らなかったように、房子は甥の翔が生まれた頃から興味深く関わり、自分は、翔の味方だと告げた。
翔が、母一人子一人で、母親の結衣子に随分なついていると、自分にも、そうあってしかるべきだという錯覚に陥り、やたらと世話を焼きたがった。
ところが、結衣子にとっては、少しでも、息子に自立心を育みたい。
過剰な先走りは控えてくれるよう、話したが、昔から、欲しいものは、泣き叫べば手に入ってきた房子にとって、嫌な壁でしかなかった。
房子は、姉の権利で手の届くものは、片っ端から妨害した。
父親の車を自分も運転出来るようになれば、父親が車に乗らない時は、キーを隠して姉が車に乗れないようにした。
結衣子の息子が熱を出して病院に連れていかねばならない時など、嬉々として、キーを隠した。
結衣子は、車を買ったのは自分でない為、車に乗ろうとしてキーがないときは諦めた。
そして、翔が、車に乗れる年齢に達した時は、迷わず、車を買ってやった。
翔が、幼い頃、高熱を出したのに、タクシーも中々来ずに、待ちきれなくなった翔が、地べたに座り込んでしまった光景を二度と繰り返してはならないと思った。
母子家庭で、自分の都合で離縁した為、一切の養育費など取らず、自分だけの収入で翔を育てた結衣子にとって、息子に車を買ってやることは楽ではなかった。
ただ、翔が、心置き無く、自分の必要に応じて、自分の車を出せる自由が嬉しかった。
翔も、結衣子を、よく車に乗せた。
房子の思いが、嫉妬に絡めとられたのは言うまでもない。