ここに登場する人物やストーリーは、実は、架空のものではない。
家庭内で家族間が百パーセント上手くいく例の方が珍しいのである。
人は、常に、誰かを傷つけ、傷つけられている。
各々の心の持ち様がさまざまであるからこそ、世の中は、日々目新しく、確実に、1日前とは違う自分を生きていて、他人の価値観とすっくり同じようにいかないジレンマを抱えている。
それゆえ、各人一人一人の生は尊重されるべきであって、親兄弟といえど、それを虐げてよいはずがない。
ところがどうして、結衣子のように、さして騒がず、淡々と生き、業績を残して歩く人物ですら、実の親や姉妹の不幸を抱えている。
冷静な判断の出来ない幼少時から、親の虐待を受けて育った子どもが、世の中の流れにスムーズに溶け込めなかったとして、罰せられるのは、当事者の子どもだけだろうか?
結衣子は、後に母親と妹に対して殺意を抱く。
それは、罪なのだろうか?
私は、この小説を書くにあたって、密室状態の家庭で行われている虐待を、世に問いたい。
さんざんな目にあわせておいて、実の家族に殺意を持たれる側には、罪も罰も要らないのだろうか?
裁くのは、いったい、誰なのか?
虐待をキーワードに、正義というものを、読者の皆様と考えていきたいと思う。