傷の具合も良くなり、俺は助けてくれたジプシー達と行動を共にする。記憶は一切戻らないが、ジプシーがどんな人間か知った。
世間ではジプシーは悪魔の使いだ、魔女だと色々悪い噂があるが、それは独断と偏見なモノだと思った。
彼等は薬草の調合、医学、占星術、色々な分野に詳しいだけであって、世間が言う事は間違っている。
俺が彼等と行動を共にして、半年が経とうとしていた。俺を見付けて助けてくれたワンダが気になっている。傭兵と言う生業は、金を貰って時には殺人を行う。俺の両手は見えない血で汚れている…そんな俺だけど、ワンダは特別な存在になっている。
彼等は時々街外れでテントを張り、収入を得る為に街の人間を相手に商売をする…俺は助けて貰った恩義が有る。その恩義を返す為に彼等の用心棒を買って出た。報酬は必要は無い、世話になっているからだ。
日が暮れて夜が訪れた。春先だから外は冷えている…テントに囲まれた中央で俺は焚き火を番をしていた。そこにワンダが来た。
｢飲む？身体が温まるよ｣
彼女の屈託のない笑顔が心を癒してくれる。
｢ありがとう…｣
俺は彼女から金属製のコップを受け取る。
｢シュダ…いつも、ありがとう｣
｢礼を言われる事はしてない｣
俺はコップの中身を飲みながら言う。
｢ううん、シュダのお陰なんだよ…皆、何も言わないけど感謝しているんだから｣
そして、暫く沈黙した後に続けて言った。
｢シュダ…アタシ気になる人がいるの｣
彼女が俺に言った言葉が俺を動揺させる…彼女に覚られない様に平静を装う。
｢そうか…｣
それ以上何も言えない。俺の手は血で汚れている…こんな俺よりも、他の男の方が彼女を幸せに出来る。
｢言っちゃおうかな…気になる人ってね、シュダなの｣
彼女が言った言葉…俺は彼女を抱き寄せて唇を奪った。
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