「・・・行こうぜ」
沈黙の中、声を上げたのはウェドだ。
「フラット、どうすればいいの?」
パールも覚悟を決めたようだ。
「わかりました。じゃあ、まずは目を閉じて、手を繋いで下さい」
二人が目を閉じたことを確認すると、フラットはタクトの額に右手を当て、パールとウェドの繋がれた手の上に自分の左手を重ねた。
「心を落ち着けて、神経を集中させて下さい。たくさんの乱れた糸がゆっくり一本になるようにイメージするんです」
フラットは二人が落ち着くのを待った。
「最後にもう一度言います。夢は記憶です。過度な干渉は記憶を変えてしまう恐れがあります。気をつけて下さい・・・」
三人を柔らかな光が包んでいく。
タクトはいつものように朝日と共に目を覚ました。
「タクト!父さんは母さんの様子を見てくるから、畑とお婆さん頼んだぞ!」
いつものように朝一から父親の大きな声が1階から響いてくる。
今日は、いつ産まれてもおかしくない妹を身籠った母さんの様子を見に行くようだ。
「父さん、いってらっしゃい」
2階から手を振る息子に笑顔で手を振り返し、家を出て行った。
祖母の部屋に行き、おはようと言い、用意されていた食パンを食べると、そそくさと家の隣の畑へ向かった。
「・・・ここは?」
どうやらタクトの夢に入れたようだ。
全く知らない部屋の中にいた。
「家の中だな。タクトの家か?」
「とにかく、この夢を見ているタクトさんを探しましょう。この夢の中に存在するタクトさんの近くにいるはずです」
三人は部屋から出て、階段を降り、家を出た。
「あれ?あれ、タクトかしら」
家のすぐ隣にある畑の中に過去のタクトの姿があった。
「タクトさんは?」
タクトは隣で彼の姿をただじっと見ていた。
「あんなに近くにいて気付かないのか?」
「夢を創り出している本人は、夢の登場人物ではありませんからね。でも、僕達はその夢の登場人物として侵入してきたので気付かれます」
「じゃあ、あの小さなタクトに気付かれないようにしないといけないの?」
「いえ、記憶とはいえ、あまり大きなことを起こさない限り記憶が狂うことはないので、少しの接触なら大丈夫ですよ」
パールは何かを閃いた。
「なら私に任せて、早くタクトを夢から覚まして、元の世界に帰らないとね」