子どもは家を選べない〜その12〜

真理康子  2009-12-13投稿
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恐怖は、翔の脆さだった。
感情の起伏の少ない、誰かの強烈な味方をするでもない気性は、母親に対して猛り狂うような祖母や叔母を拒否するものではなかった。

自分に対して、身の世話を焼かれることは、さして構わず、都合良く家の者と接していた。

国立の大学を出してもらい、豊かな学生生活を終えたが、就職もせずに、家で出来る仕事をしようとしていた。

生活のリズムは崩れ、しまりのない生活ぶりは、内外に忙しい結衣子の生活とは歯車があわず、千鶴子や房子と過ごす時間が増えた。

房子は急に台所に立つようになり、千鶴子は見よう見まねの寄せ集めを、さも、深く学習してきたかのごとく、口にした。

絶えず、しんどいだの、たいへんだのと口にしては、自分たちが、働いているかのようなふりをした。

外部との接触の少ない翔には、それはそれで、一つの世界であった。

聞こえよがしに、結衣子に嫌がらせを言ったり、すれ違い様に、それこそ、地獄から這い上がろうとする餓鬼そのものの顔と声で、呪うような口走る輩を、攻撃もしなかった。

翔が、子どもの頃は、母親を庇って「僕のママやで」と向かう気概は、年と共になくなった。
結衣子は、なるべく、夕食時間などは外食に翔を連れ、生活環境に揺さぶりをかけた。

翔が、就職で思い通りの企業におさまっていれば、事態は違っていたのだろう。

結衣子は、とにかく、息子が外に出ることから重視した。

千鶴子は、この混乱に乗じて、常に食卓があればよかった。

一時期、翔がアルバイトに行き出して、結衣子が弁当を作り、自分に食べ物が少ししかあたらないと錯覚した時には、わけのわからない癇癪を見せて、妨害をした。

したたかな房子は、翔に、静かに「おばあちゃんは翔くんの心配をして癇癪をおこしたのよ」と告げた。

少しでも、翔を自立させたい結衣子には、苛立たしい場面が続く。

翔が結衣子にたしなめられて口答えをしているのを耳にすると、千鶴子と房子は、まるで、鬼の首をとったかのように、せせらわらった。快感だった。

親族と結衣子は、この嫌らしい二人には愛想をつかして線を引いた。

キーワードは、翔の心だった。

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