月の綺麗な夜に岬は倒れ、追い詰めたのは俺だと思って、眠れなくなっていた。
岬を嫌いになったわけじゃない、だけど香里が心の中で大半を占めてしまっていた。神秘的な雰囲気やなぞめいた感じ、時々見せる寂しそうな横顔が俺の中に息づいていて、天使に見間違えるほどの清純な美貌は芸能人でもなかなかいないと思っていた。とても三十過ぎの未亡人にはみえない・・・・
どうしてしまったのだろう、今まで十七年間どんなに告白されても岬一筋が、あの湖で会ってからだった。これが一目惚れと言うのだろうか?
あんなに辛そうな岬は見たことがない、傷つけたのは確かだった。
誰かが香里は幽霊だと噂していた。そういえば日中は会ったことがまだない、妙なことに気づいた。明日会いにいってみようと思うのだった。
広い庭に昼下がり入っていくと、湖から水音がして、香里が裸でバシャバャと泳いでいた。綺麗だなと見とれていると、手招きしていた。俺も服を脱ぎ捨てて湖に入った。
水は青く澄んでいて、キラキラと裸体を映し出していた。
ひと泳ぎすると、お手伝いのキヨさんが冷たいカルピスを持ってきてくれた。さっと薄いワンピースを羽織ると、パラソルの下でくつろいだ。
立とうとしたそのとき香里が今度は倒れこんだ、頭を抱えたまま・・・・
何が起きたのか一瞬わからなかったが、抱き上げてベットへと運んだ。
主治医が来て注射を手際よくしてくれた。
俺はそのときまだ事の重大さに気づいていなかった。