すぐ横に誰かが降り立つ気配を感じ、しかしハントは狸寝入りを決め込んでいた。すると脇腹を容赦なく蹴り上げられ、「いでっ!」と声を上げながらハントは渋々目を開けた。
「何やってんだよ、ハント。サボってんじゃねーぞ?」
治安部隊の若者の一人に、半笑いを浮かべながら見下ろされ、ハントは不機嫌に目を細めた。
「オレを起こすってこたぁ、それなりの成果を持ってきやがったんだろうな?」
「おう。奴ら、自首してきたぜ。」
さらりと言われた言葉がすぐには理解できず、ハントは「は?」と眉根を寄せた。
「何寝ぼけたこと言ってんだ?指名手配犯が自首とか、どんなけ、」
「寝ぼけてんのはテメェだ、バカ。状況は刻一刻と動いてんだよ。」
とにかく早く来いよ、リーダー。長い髪を翻しながらそう言って屋根を蹴った若者に対し、ハントは言い返す言葉も見つからず、仕方なく同じように空中に飛び出した。
あまりいい予感はしない。浮かれず冷静に、と肝に銘じながら、地面に降り立ったハントは、若者の後に続いて走り出した。
王子は退屈そうに金色の髪をいじっていた。一見すると女の子のような動きだが、見た目が美しいのでどこか様になっている。
ジーナはそのすぐ横で仁王立ちになり、胸の前で腕を組んでどっしりと構えていた。眼光鋭く、ゆっくりと周囲に目を配り、異変がないか注意深く観察している。その様子からは余裕が見られ、また腕を組んでいるというのに、まったく隙がないような印象を受けた。
二人は治安部隊の若者たちにより包囲されていた。若者たちは武器こそ持っていないが、並外れた腕力で剣さえ砕くというのは有名だった。
彼らは警戒して二人と距離を取っていた。はた目からみても、この二人の様子は異常だった。今まさに捕らえられようとしているというのに、褐色の肌をした女は見るからに余裕そうで、美しい少年はそもそも治安部隊に関心がないような有り様だ。第一、残りの二人の姿が見えないこともおかしい。光の子供の力で攻撃を受けることこそ、治安部隊がもっとも危惧していることだった。
しばらく無言の膠着状態が続いた後、ハントを伴って走り寄ってきた若者に気づいて、全員がそちらに目を向けた。
「おーす、お疲れ。」
「リーダー。こいつら、下町の通りに立ってたから連れてきたんだが、残りの二人はいなかったぜ。」