「好きだから仕方ないじゃん。樹君が口出すことじゃないよ。」
私は樹君のことを勝手に「実は良い人っぽそう」と思っていたので裏切られた気分だった。
私は樹君を下駄箱に残したまま走って部活へ向かった。
香奈へは龍太君に好きな人がいることは伝えなかった。言うと香奈が泣き喚きそうだったので。
でも卒業式になっても香奈が龍太君に告白することはなかった。
結局、香奈も龍太君に好きな人がいることに気づいていたのかもしれない。
居酒屋へ向かう間に、そんな中学時代のことを思い出していた。
「着いたー」と美紀が言いながら、店先の暖簾をくぐり、香奈と私が後ろに続いた。
もうほとんどみんなが揃っている。集まりが良い。
「…龍太が来てない。」
香奈が呟いた。
見渡すと確かにいない。
空いている席もほとんどなくて、奥のテーブルがかろうじて空いていた。
3人でその席につこうとすると、ガラッと店の扉が開き、男性が二人入ってきた。
龍太君と樹君だった。
空いている席は私たちのいるテーブルだけなので、二人がこちらに来た。
香奈が小さくガッツポーズした。