小学生の頃、同級生に軽い知的障害を持つ男の子がいた。
名前は「てっちゃん」。
てっちゃんは、知的障害を持っていたが普通に僕らと同じように学校に通っていた。
今のように「複式学級」のようなものが無かったため、授業も僕らと一緒に受けていた。
言われる事を多少は理解していたが、言葉を発する事はあまりなく、物静かなてっちゃん。
てっちゃんは、いつも汚い格好をしていた。衣服はいつも鼻水や土で汚れていたし、ほとんど風呂にも入っていない感じだった。
家が経済的に苦しかったわけではない。ただ単に両親も知的障害だったため、てっちゃんの衣食住の世話が行き届いていなかったのだ。
生徒のほとんどが彼を避けていたし、汚いものを見るかのような眼差しで見つめ、ある生徒達は彼をいじめていた。
僕は、自分の両親から知的障害についてキチンと教えてもらっていたし、「守ってあげないといけないよ!」と、強く言われていたので他の生徒達に同じようにてっちゃんをいじめたりは決してしなかった。
多分、子供なりに「僕が守らなきゃ」っていう感じの変な使命感を抱いていたのだと思う。
そんなこんなで、僕は頻繁にてっちゃんに「一緒に帰ろう」と誘い、てっちゃんは声を発さずただコクリとうなずいて2人で黙って帰る。そんな日が多かった。
下校時に、てっちゃんをからかいに来る生徒達をたしなめたり、時にはいじめようとする上級生達と喧嘩したりもしていた。
でも、何が起きようとてっちゃんは動じなかった。泣くことも、怒ることもしない。ただ、全てを受け入れ、全てを耐えていた。
思えば僕は、その頃からてっちゃんの「生き方」に感動や尊敬が混じり合った、何とも表現しようの無い感情を抱いていたのかも知れない。
そして、月日は流れ小学校卒業が近づいた。
僕は、ちょうどその時期に隣町に引っ越す事になった。
親しい仲間達と別れて、新しい環境に身を投じる事になった僕は、もう不安でいっぱいになっていた。
そして、てっちゃんの存在を忘れたまま…卒業した。