町の釣り人は今日も魚が掛からない。
ただ、流れていく雲
翼を広げ自由に飛ぶカモメたち。
そんな変わらない景色の中で、非日常を目にした。
「なぁ。俺にはさっきから、どうにも」
仲の良い隣の釣り人にそれを話した。
「人が歩いているように見えるんだが」
「んー。人かなぁ。クジラが顔を出してるんじゃないか」
どうやら隣の釣り人も、その非日常を気にしていたらしい。
「クジラは顔を出さないよ。あるとすれば」
「あるとすれば、なんだ」
「うちの嫁が、ゴミを出せって言いに来たのさ。今日のうちにな」
「はは、それならまだ良い方だな。」
カモメたちのダンスが終わった頃になると、
その非日常は釣り人の前に立っていた。
「なぁ。俺には、どうにも少年にしか見えない」
「ああ。おい、君はそこで何をしている」
人が海の上に立つ
そんな非日常を目の前に、防波堤の上から当たり前の質問を投げた。
その質問に少年はこう答えた。
「僕の体はどこにある」
釣り人がお互いの顔を見合わせた直後、
町全体に響き渡るほどの地鳴りが鳴った。
打ち上げ花火のようなその音は、まるで何かの合図のように。