ジーナは剣を動かそうと渾身の力を込めたが、剣はびくともしなかった。それどころか、背後から二人の若者に両腕を抑えられ、剣はハントに奪われた。
王子は必死に囲みを抜けようと若者たちの腕に取りついているが、若者の一人が笑いながら足の裏でトン、と王子の肩を突くと、それだけで簡単に尻餅をついてしまい、絶望的な気分になった。治安部隊は強い。筋力が常人のそれではないのだ。
若者たちはゆっくりと、時計回りに王子の周りをぐるぐると回り出した。たくましい足が次第にステップを速くしていき、回転は目まぐるしいスピードに変わっていく。
頭を抱えてうずくまった王子の姿が霞んでいく。ジーナは「やめろっ!!」と絶叫して暴れに暴れたが、その叫びが届くことはなかった。
心が恐怖に凍りついたその時、王子の足元の地面が盛り上がり、固い地面を突き破って何かが飛び出した。王子は空高くはね飛ばされ、王子を囲んでいた若者たちは瞬時に反応して陣形を崩すと、各々安全な場所まで飛びすさった。
その「何か」は、巨大な猫だった。全長四メートルくらいはあるだろうか。土でできているかのように、その毛並みは濃い茶色をしていて、四つの足の先だけが白かった。王子と同じ金色の瞳は、昼間だというのにギラギラと光っている。猫は空中で王子をパクッと口にくわえると、軽やかに地面に降り立った。
しん……と辺りが静まり返り、その場にいた全員がわずかに後ずさる中、猫は優雅な動きでそっと王子を地面に降ろした。
王子の姿はもはや霞んではいなかった。ギリギリで囲みを抜けたことがなんとか彼の存在を繋ぎ止めたようだ。王子はぎこちない動きで身を起こすと、恐る恐る目の前に座ってひげを撫でている巨大な猫を見上げた。猫は怯えた王子の視線に気づくと、「ミャア」と、その外見からは考えられないほど可愛らしい、か細い声で鳴いて、べろりと巨大な舌で王子の顔をなめた。王子はきょとん、と目を丸くした後、突然声を上げて笑いだした。
治安部隊は唖然と口を開き、ハントなどは、「なんじゃそりゃあ……」と呟いている。ジーナは顔を歪めて笑うと、ハッと胸の奥底から息を吐いて体の力を抜いた。