イブの日の朝――
それは、目覚めとほぼ同時だった。
ベッドの中の私が気付いた事。
何でこんなに天井が近いんだろう。
え!?見える!?
もしかして本当に見えてる!?
思わずベッドから飛び起き、部屋の中を見回した。
見える。見えてる。
間違いなく私の目は見えている。
夢が現実になった――
こんな事って本当にあるの!?
数日前の夢の内容を思い出した。
“君の願い事を叶えてあげよう”
神さまって本当にいたんだ。
鏡に自分の姿を写してみようと思ったけれど、
私の部屋に鏡は置いていない。
いつもは、杖をついての階段の上り下りさえも、
走って駆け下りた。
勢いよく階段を駆け下りる私の姿を見て、
驚いた母は言った。
『桃子‥か、階段は‥ゆ‥ゆっくり下りなさい‥‥。』
母の声は震えていた。
迷わずに向かった先は洗面所。
洗面台の前の鏡に写し出された自分を見た。
『私‥‥これが私‥‥‥‥。』
そこには、
私が想像していた私とは全く別の私がいた。
自分が他人に、どう見られているのかを、いつも気にしていた私。
『私って、こんなに綺麗だったんだ。』
初めて知った本当の自分の姿。
嬉しかったせいか、涙がこぼれた。
『桃子は、お母さんの子だもの。
綺麗で当然よ。』
『お母さん‥‥。』
『いいの。何も言わないで。
これは、きっと神さまが桃子にくれたプレゼント。
今日は彼とデートでしょ!?
早く支度しないと遅刻しちゃうわよ。』
胸がいっぱいで、言葉が出て来ない。
母は何故、こんなに落ち着いているのだろう。
まるで、神さまが私の願いを叶えてくれた事を、
母は知っていたかの様だった。
私は、生まれて初めてメイクをした。
妹からメイク道具一式を借り、
生まれて初めてルージュを引いた。
鏡の中の私は、
今日の着こなしのお手本にした、
雑誌の中のモデルさん達に負けないほど、綺麗だった。
今日の私を見て、彼は何て言うだろう。
目が見える事を知ったら、きっとびっくりするだろうな。
胸がはずんだ。
これから、彼と会うんだ。
彼と会える。
家を出た私は、心の中でつぶやいた。
神さま、ありがとう――