冬の寒空。
風は荒々しく断続的に吹いていた。
断崖の淵に小さな石が沢山積んであった。
なんとも乏しい墓である。石の山は崩れていて、墓の原型を全くとどめていない。
その近くの、死んだ者へ手向けられた白い菊はすっかり色褪せたまま地面に包装しないで置いてあった。
風に飛ばされないように重石が乗っている。
そこに一人の無精髭を生やした男が立ち寄った。
髪は乱れている。風の所為ではない。
「この背中に白い羽根が生えたなら、お前の所へ行けるのか。」
そう呟くと、暫く静寂が続いた。
男は口で軽く笑って、崩れていた墓石を一つ一つ積み上げた。
強風が、何度も何度も玩具の墓を崩し、それを何度も何度も、男は積んだ。
途中で男は諦めて、積みかけの石を空の彼方へ蹴飛ばした。
「もうさよならだ。」
そう言って、背を向けた。振り返ると、鼠が寝転がっている。
死んでいたのだ。おおよそ腐った供え物を食べて腹を下したのだろう。
男はその死体に唾を吐いて立ち去った。
去り際に、
「お前もこいつも、同じ死体だ。もう戻ってはこない。」
そう投げ捨てた。