男は一ヶ月前、春香という女に呼び出された。
二人は近くのファミレスに立ち寄り、入り口とは最も遠い奥の方の席に座った。
男はアイスコーヒーを頼み、女はホットココアを注文した。
「いよいよ明日ね。ねえ、ユキオ。何時決行にする?」
「そうだな。暗い方がいいんじゃないか?誰にも邪魔されないだろうし。」
男は適当に返事した。
「だめよ。それじゃあ崖の上から飛び降りた景色が見えないじゃない。
」
女は息をつく間もなく、返答した。
「じゃあハルカに任せるよ。いつ頃がいいんだい?」
「そうね、夕暮れ時の太陽の滲んだ橙が海に吸い込まれていくその瞬間がいいわ。私達二人同時に飛び込んで海に溶け込むの。ロマンチックだわ。
私達、海になるのよ。」
春香が目を光らせて言った。
「わかったよ。じゃあ予定通りあの崖の上に、十六時半にしよう。」
男はそう言って、残ったコーヒーを一気に飲み干し、会計を済まして立ち去った。