二十代前半の一部の例外が現れた。立派な体つきをしている。
僕たちは黙ったまま彼を見る。
『ねぇ君。俺と遊ばない?』
誰に言ったのかは一発でわかる。奈々さんに言ったのだろう。
『何、無視しちゃってるのかな〜?』
彼と目があった。僕は目を逸らす。
『こんな男といないでさ、俺と遊ぼうよ』
『うるさい』奈々さんがとんでもないことを言った。
血の気が引いた感じがした。
『はぁ〜』と彼は言うと急に僕の顔面を殴りつけた。
僕は地面に倒れ込んでしまった。
『あれ〜彼、寝ちゃったよ?寝ちゃったから置いていこうか?』
情けないな、と自分を責める。
『さっさとどこか行って』奈々さんの声には力強さがあった。
『調子づいてんじゃねぇよ』
彼の態度が凶変した。そして、奈々さんがしゃがみ込んだ。右太股を押さえている。蹴られたようだ。
『次はそんな痛みじゃ済まないよ』彼はそう言うと、どこからかナイフを取り出した。
脅しのつもりで出したのだろう。
僕は自分の恐怖心を押さえ込み、彼の両足につかみかかった。
『放せ、このカス』
彼は、足にしがみついている僕を振りほどこうと、必死になっている。