「オース。」
若者たちは間延びした声で答えると、ジーナを王子の元へ歩かせ、二人と巨大な一匹の猫をゆるく円を描くように囲んで、ぞろぞろと通りを歩き出した。美香は真剣な表情でそれを見つめ、ゆっくりと立ち上がると、耕太と目配せした。少し距離を置いて、耕太は素早く足音を立てないように行列の後に続き、美香もそれに習った。
歩きながら、ジーナは先頭にいるハントに声を掛けた。
「残りの二人の場所を詮索したりしないのか?」
ハントは振り向かずに答えた。
「聞いたってどうせ答えねぇんだろ?だったら時間の無駄じゃねえか、アホらしい。」
妙な奴だ。ジーナは思わず嘆息した。普通は体裁だけでも取り繕って、その場で訊問くらいはするものだ。
「一つ聞きたいことがあるんだけど。」
王子は慎重に切り出した。ここが作戦の要だった。ジーナは何食わぬ顔を装ってそっぽを向いているが、実際は全神経を耳に集中させていたし、美香と耕太はバレるギリギリの位置まで治安部隊の一行に近づき、耳をそばだてた。
ハントはちらりと一瞬だけ振り返って王子を睨むと、また前を向いてしまった。
「んだよ、ペテン野郎。」
猫のことをまだ根に持っている様子だ。
そんな言われ方をした事がない王子は、思わず言葉に詰まり、ジーナと耕太は笑いを噛み殺したが、美香は不安げに眉を寄せていた。機嫌を損ねたハントが、何も教えてくれなくなったら困る。
王子は気を取り直すと、なんとか肩をすくめる風を装って言った。
「さっきはごめん。悪かったよ。それで、聞きたいのは強制労働施設のことなんだけど――、」
「お前には、存在が消えかかるまで働いてもらう。」
「そうじゃなくて、強制労働施設はラディスパークのどこにあるの?コルニア城は近い?」
若者たちがざわついた。ハントは立ち止まって、思い切り怪訝そうな顔で王子を見た。
「何だテメェ。捕まったそばから、もう脱獄のための情報集めか?」
「ち、違うよ!」
思わぬ方に話が向けられ、王子は焦った。何かハントを怒らせない方法はないかと考えを巡らせ、ちょっと回りくどい言い方に変えてみた。
「もしコルニア城が側にあるならさ、支配者と側近もいるってことだろ?そしたら、真面目に働かなきゃまずいかなぁ、また消されたくはないなぁ、と思って……。」
かなり苦しい言い訳だった。