その日、
彼は、私のわがままをたくさん聞いてくれた。
目が見えないからという理由で、外出する事を避けていた私にとって、
ボーリング場やカラオケなどの娯楽施設へ行く事さえも、
生まれて初めての事だった。
初めて投げたボーリングの球。
初めて持ったマイク。
見るもの全てが、私には新鮮だった。
その後に観た映画は、アクション物。
彼は、恋愛物が観たかったらしいけど、
私が観たい物を優先してくれた。
私が恋愛物よりも、アクション物を選んだ事は、彼には意外だったみたい。
『桃子。そろそろ食事しない!?
僕の知り合いの店なんだけど。』
『えぇ!?宇野崎さんて、こっちにも、お知り合いの方がいらっしゃったんですね!?』
『うん。これでも結構、手広くやってるからね僕。』
着いた先は、おしゃれなレストラン。
テーブルマナーなんて全く知らない私に、彼は言った。
『ハハハ。大丈夫だよ。僕が教えてあげる。
お箸も、もらってあげたから、好きな方を使っていいんだよ。』
ふとした場面で感じる彼の優しさ。
あぁ、やっぱり私はこの人が好き。
『桃子。どうしたの?お腹空いてない?
それとも、こういう店、苦手だった!?』
『ううん。違うの。
美味しいお料理と、今日、初めてあなたの姿を、この目でハッキリと見れた事が、
すごく嬉しくて‥‥胸がいっぱいなの。』
『‥‥うん。僕も嬉しいよ。今日、桃子に会う事が出来て。』
私の為にイブに会う時間を作ってくれた彼。
今日という日の思い出が今、
こうして二人で一緒に過ごしている時間と共に、
ゆっくりと私の記憶の中に刻み込まれてゆく。