遠ざかっていく大澤の背を見送った八雲は、笑みをうかべて哲哉に語りかけた。
「これであと一人だなっ!」
「それもお前と大澤さんのおかげで、解決しそうだよ」
首を傾げる八雲をそのままに、哲哉は三塁方向にむかって叫んだ。
「お前はどうするんだ、しゅうっ!」
哲哉が呼びかけた先では、先程から勝負を観戦していた黒ジャージの少年が、好意的な視線を哲哉達にむけていた。
「俺も明日からでいいかな?」
「ああ、歓迎するよ」
軽く左手をあげて謝すると、少年はそのまま走り去っていった。
「……アイツが小早川か?」
遠ざかる背中を見つめる八雲の問いに、哲哉がうなずいて答えた。
「ああ、小早川修治だ。俺達の九番目の仲間さ」
小早川の立ち去る際の軽やかな身のこなしを思い起こし、八雲は小気味よい笑みをうかべた。
「なるほどな、確かに運動神経が良さそうだ。
こりゃ〜、今から地区予選が楽しみだ、早速顧問の先生に頼んでエントリーしてもらわねぇとなっ!」
「あぁ〜っ!」
感慨深く語った八雲に、哲哉と五人の三年生達が同時に声をあげた。
「な…何だっ、ミンナして変な声だしてからに」
珍しく素っ頓狂な声をだした哲哉に驚く八雲。
「……忘れてた。この部、休部状態が長かったから、今は顧問がいないんだった」
目が点になる八雲は、言葉を失い佇んでいた。
いつの間にか、西の空が茜色に染まり始めていた。
その空を、一羽の烏が橘華高校野球部一同を嘲り笑いながら飛んでいた。