ハントの自嘲したような笑みが、ジーナには気にかかった。
どんな事態になりつつあるのか。その言葉は、現状がかなり危険な状態に以降しつつあることを意味している。
「覇王は一体何を企んでいるんだ?奴が様々な領域から集めた者たちは一体、何のためにここへ――、」
言い淀んだジーナの言葉を、しかしハントはすでに聞いていなかった。いつの間にか治安部隊の若者たちの足は止まり、王子と猫とジーナは、危うく前を歩いていた若者のがっしりした背中にぶつかるところだった。
ハントは真っ直ぐ前を見つめている。そのボサボサ頭越しに見えたのは、まだ六、七歳くらいに見える、パジャマを着た小さな少年の姿だった。
少年の容姿は、この庶民的な下町の風景の中ではあまりにも場違いだった。少年は金髪碧眼で、病的なほどに白い肌をしていた。鼻の回りには薄くそばかすが浮き、やつれた顔はいかにも不健康そうに見える。
王子は不思議に思い首をかしげた。なぜ治安部隊は立ち止まってしまったのだろう。少年は何を言うでもなく、ただぼんやりと突っ立って、大人数からなる一行の行く手を阻んでいた。
沈黙の中、ハントが最初に動きを見せた。
「……何の御用でしょうか。」
ハントは軽く地面に片膝をつくと、胸に利き手を当て、頭を垂れた。他の若者たちも一斉にそれに習い、ジーナたちだけが円の真ん中で立ち尽くす形になる。
そのへりくだった様子にも驚いたが、少年がハントたちに目を向けず、ジーナや王子さえも通り越して、虚ろな瞳で真っ直ぐに「こちら」を見ていることに気づいて、美香はゾッと肌が粟立った。
少年は、にたぁっと小憎たらしく笑って言った。
「お兄さんたち、頭悪いよね。後ろにいるよ、しめーてはいの残りの二人。」
ハントは凄まじい勢いで振り返った。美香はなんとか堪えて息を詰めたが、耕太は驚きのあまり後ずさり、その際に地面が擦れる微かな音が響いて、その場にいた少年を除く全員がおののいた。
「道の向こう側を封鎖しろっ!」
ハントが手を横に振って叫ぶと、六人の治安部隊の若者たちが地面を蹴って空中に飛び上がり、ジーナ、王子と巨大な猫、さらには美香と耕太の頭上さえも大きく飛び越え、スタッと着地し、退路を絶つように道に一列に並んだ。ただし治安部隊の若者たちに、美香たちの姿がハッキリ見えている様子はない。