手に持っていた、コップが落ちる。
『大丈夫?』
『ごめん、大丈夫、ありがとう』
中身が零れてしまっていた、コップは居酒屋にありきたりなプラスチック製で助かった。
呼吸が止まるとはこういった事なのかと頭では解ったが、体はそうもいかないようだ。
期待していた自分がいた、三年たてば人は変わると分かっていたけど、こうもはっきりしてしまうと落ち込むしかない。
ああ、好きだったんだ。と思いながら自分のペースで飲み会を過ごす事にした。
『ちょいーす!』
遠くで見知った顔が入って来た。期待していたあの顔だ。近くにいた女の子達が口々に言った。
『『あ、橋詰さん!』』
『遅れて参上すんません(笑)』
懐かしいあのかわいい笑顔で言う。
『どうしたんですかぁ〜?風邪って聞きましたけど?』
社交辞令かはたまた興味か女の子達は理由を聞き始めた。この時ばかりはあの人達が羨ましくまた性格に感謝したくなる。
『ルームメイトが風邪引きやがって、ほっとく訳にも行かないから一応飯だけ食わしてから出て来たんだ』
ルームメイトは女なのかと考えてると、
『女の人ですかぁ?結婚したって聞きましたけど?』
『何々質問攻め?りかちゃん俺の事好きなの(笑)俺フリーだよ』
『冗談は顔だけにしといて下さぁい!』
橋詰さんてその周りの人達が笑う。
ほっとしたのと、自分で聞けない苛立ちとあの子への苛立ちでさっきより周りがよく見えて来た。いつの間にか飲み会でよくある席の移動がある程度終わって、色んな固定のグループが出来ていた。当然私は少し離れた所で一人だ。
この仕事場ではうまく立ち回れなかったから、人を観察する癖がおのずと付いた。いつものグループとその間を行ったり来たりする女の子とたまに適当に動く男の人。
皆、ある程度こっちに話に来て去って行ってを幾度かした所で、何時ものように、橋詰さんが私の前に座る。
『飲んでる?ああ、飲めないんだっけ?』
『軽く飲んでますよ。橋詰さんこそ飲んでますか?』
『遅れた分を取り戻さないとだからね』
と笑う。この笑顔に私は弱いのだ。つられて笑っている。