子供のセカイ。128

アンヌ  2010-01-04投稿
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ただ音のした辺りから、大体の位置を把握しているのだろう。ジーナたちのいる前方から三人、さらに後方の六人がじりじりと近づき、美香と耕太は身動きの取れない状態に陥った。
「なぜっ、……!」
さっきまで味方のように振る舞っていたのに、と怒鳴りかけたジーナの口を、ハントは素早く手で塞いだ。その目が見開かれ、こめかみに汗が浮いているのを見て、ジーナはハッとなって黙った。
少年は相変わらずニヤニヤしている。どこから取り出したのか、その手は赤いイチゴ味の棒つきキャンディーを握り、ペロペロと楽しそうに舐めていた。
(この子供はまさか……光の子供の魂の分け身か!)
だったら、治安部隊が逆らえないのも頷ける。魂の分け身は目が良いくらいで、大した力こそないものの、“真セカイ”においてこの“子供のセカイ”を作り上げている張本人たる、光の子供の心の切れ端なのだ。無下に扱えば光の子供である支配者――舞子が黙ってはいないだろう。
少年は気だるそうにパジャマの裾を引きずりながら歩いてくると、ジーナの前に立って赤い飴の先を突きつけた。
「お前、ぼくの前でちょっと生意気なんじゃないの?ぼくに逆らったらどーなるか知ってる?消されちゃうんだよ、ハオウ様に!」
「……っ」
(なるほど、こいつ自身が覇王と直接に繋がっているからか……。)
ハントが異常に反応したのもそういう訳だろう。少年は恐らく監査員だ。もしハントがジーナたちと仲良くしているところを見られようものなら、その行動はあっという間に覇王に筒抜けになり、只ではすまされないはずだ。
(「味方ごっこ」はここまでということか。)
ここからは今まで通り、治安部隊は正真正銘の「敵」になる、と、そういうことだろう。
理解したらしいジーナの口を解放し、一歩離れたところで控えているハントは、すでにジーナと目を合わせようとすらしなかった。
ジーナが何も答えないでいると、少年はますます機嫌を損ねたようだった。
「今すぐそこで土下座してあやまりなよ。そしたら許してあげる。舞子ちゃんにも言わないでおいてあげるからさあ。」
美香と耕太は、思わず息を詰めてジーナを振り返った。砂漠の騎士であるジーナは、誇り高く、自分が認めた相手でなければ、決して頭を下げることはしない。そのジーナの気高い精神を、この少年はいとも容易く折ろうとしている。



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