7-6 心路つ
力の抜けて行く椿を,抄司郎はしばらく抱いていた。
歪む視界には,
おぞましく赤黒い血しか映らない。
抄司郎はやっと息絶えた椿をはなした。
皮肉にも死に顔までもが美しく,少し微笑んでいるかのように見えた。
『‥椿。』
震える手は悲しみからなのか,
怒りからなのか,もはや分からなかった。
『お前にしては珍しく随分と愛していたんだね,その女の事を。』
平太が人事に言った。
誰が死のうが今の平太にはどうだって良い。
抄司郎を斬ることだけが平太の心を支配していた。
『‥なんだその目は。』
いつの間にか
抄司郎は平太に怒りの目を向けていた。
『恨んでいる。死んでしまいたい位,自分を。けれど‥』
抄司郎は椿の血にまみれた体を漸く地面に立たせた。
『椿がくれたこの命,そうたやすく終わらせるものか。』
と刀を上段に構えた。
『平太,斬り捨て御免!』
抄司郎が平太を横切った時,平太の命は既に亡きものとなっていた。
『俺達は,一体いつ間違えたのだろう。』
抄司郎は振り返って目覚める事のない二つの遺体を見た。
― 刀は,もう捨てよう。
刀を地面に突き立て,
人斬りは再び闇へと姿をくらました。
辺りは夕闇に埋もれ,
犬の遠吠えが淋しく響いていた。
武部はその後,病で死んだ。
毒を盛られていたと言う噂もある。
それが抄司郎の仕業なのかは分からない。
これで全てが終わったのだ。
≠≠続く≠≠