『‥見せて‥‥。
もっと見せて‥‥。
あなたの顔。
忘れない様に‥‥
目に焼き付けておきたいの‥‥。』
両手で彼の顔を引き寄せ、
私は、瞳に記憶させた。
そう、
この人が彼よ。
私の愛する彼よ。
ちゃんと記憶しといてね。
私のナイーブな瞳さん。
『‥‥桃子。なんか恥ずかしいな。
そんなにマジマジと見られたら。』
『いいのっ。』
あと一時間もしたら、
私の目は見えなくなる。
だからお願い。
それまでずっと、
こうしていて――
『気持ちいい‥‥。
桃子の肌。マシュマロみたい。』
『あはは。いやだぁ。
宇野崎さんだって‥‥‥。』
泣きながら見た、
あなたの顔は、
泣いている様に見えた――
彼が泣いている。
なんか不思議。
いつもは強いあなたが、
私のために泣いてくれている――
『僕も昔は目が悪くてね。
小さい頃、養護学校に通っていたよ。
杖を取られて、うろたえて泣いていた。
そんな泣き虫な子供だった。
少し成長してからも、網膜剥離の手術を二回受けているしね。』
『そう‥‥なんだ!?
知らなかった。
ごめんなさい。
私、自分の事ばかりで‥‥‥。』
『ううん。いいんだ。
だから僕も、
目に爆弾を抱えている様なもの。
そして、桃子の気持ちも、少しは分かっているつもりだよ。
これからもずっと‥‥ねっ!!』
『う‥‥んっっ‥ぐすっっ‥‥‥。』
『ほらっ、また泣くぅ〜。』
そう言ってから、
あなたは私を強く抱きしめた――
『愛してるよ‥桃子‥‥。』
『うん‥。私も‥愛してる‥‥。』
こんな素敵な夜を、
大好きなあなたと過ごせるなんて、
私は、
なんて幸せなのでしょう。
目が見えない事を、
コンプレックスに思っていた自分に、
今日でサヨナラしよう。
あなたと出会えて本当によかった。
今、
こうして、心からそう思える自分に、
私は、誇りを持ちたい。