「大丈夫か。」
ゆっくり、目を開ける。
「優太…来てくれたんだ。ここは…。」
「病院。先生も来たぞ。」香山先生も来てくれた。
「あと…」
クラスメイト、敦士さんも来た。
「良かった。無事で。」
幸輔は安心した。正直あれからはぐれたから、1人ぐらい死んじゃったかな…と思っていた。
「全員いる。涼子も笑ってる。」
拓也の両手には、涼子の写真が抱えられていた。
「いじわる先生は?」
「死んだ。今警察が詳しく調べてる。」
優太からそのことを聞き、幸輔は複雑になった。
『娘がいたんだ。』
あの言葉が、頭に染み付いた。
「良かったよな…。いなくなって。」
優太は何も知らずに、嬉しがっているようだ。
結局、あんな話を聞けたのは、幸輔ただ1人。
「そうだ、呪印は?」
幸輔はみんなに腕を見せた。
「やった…なくなっているじゃないか。」
「はい!」
幸輔は、優太と、先生と、喜びを分かち合った。
病院内だけど、たぶん泣いたり、叫んだり、大騒ぎしていたんだと思う。
あんまり…覚えてないや。
あれから、いじわる先生は、世間に大きな影響を与えたとして、ニュースで報道され、新聞では号外も出されるほどだった。
もう…戦わなくていいんだ…。
3月。
桜の蕾も膨らみ、3年生は卒業を迎えた。
幸輔と優太の進路は、地元の桜井高校。良太は桜井西高校、拓也は私立高校に行くことになった。
みんなとの別れを惜しむ4組のクラスメイト達。
ざわつく教室に、香山先生が入った。すると全員すばやく席についた。
黒板には色とりどりのチョークで、『卒業!』と書いてあった。
「…みんなありがとう。こんな先生を慕ってくれて。」
香山先生は深々とお辞儀をし、ひとりひとりの目を見つめた。
「オレの誇りは…この3年4組のみんなを卒業させることができたこと。」
「そして…」
香山先生の目からあふれる光の粒。
「先生…。」
クラスメイトみんなが先生の下へ駆け寄る。
「クラス一丸となって、いじわる先生を倒せたことだ。」
まるで、雨のように、みんなの目から涙が溢れていた。
「オレは、この3年4組、大好きだから!」
そして、しばらくの沈黙の後、
「卒業おめでとう。」
香山先生の言葉が、涙をそそった。