(……ジーナ!)
美香はぎゅっと目を閉じた。どうすればこの状況を変えられるのか、全くわからなかった。
ジーナが黙っていた時間は、わりに短かった。彼女がゆっくりと膝を曲げ、地面に腰を下げていくのを、耕太は見ていられずに思わず顔を反らした。
少年は下品な笑い声を上げた。ジーナはまだ土下座とは言えない、両膝を地面につけた格好で、静かに少年を見上げた。
「私が謝れば、あなたが正体を見抜いたあの二人を見逃してくれるか?」
ジーナはちらりと視線だけで美香たちの方を差しながら尋ねた。少年はわざとらしく首をかしげた。
「さあ?どうしようかなあ。まあ、あやまらなかったら、絶対に言っちゃうけどね。」
「……そうか。わかった。」
ジーナは両手のひらを地面につけた。そのまま深く頭を下げようとしたその時、突如横殴りに迫ってきた猫の巨大な前足に気づいて、慌てて飛び起き、後ろへ避けた。
「うわあっ!?」
少年は悲鳴と同時にその姿をかき消した。見ると、巨大な茶色の猫が両方の前足の肉きゅうで包むように少年の体を捕まえ、少年は真っ青になって叫んでいる。ジーナが目を見張っていると、王子が駆け寄ってきて、ジーナの腕を取った。
「今のうちに早く!美香ちゃんたちが通れるように道を開こう!」
戸惑ったのは一瞬で、ジーナはすぐに眉間にしわを刻むと、頷いた。王子とジーナはすらりと剣を引き抜くと、それぞれ手近にいた三人の治安部隊の若者に走り寄った。
「なん、だと!?」
ハントが取り乱している間に、様々なことが一気に起こった。
まず、巨大な猫から監査員である少年を取り戻そうと、美香と耕太を囲んでいる九人以外の若者たちが、ハントの命令を待たずに一斉に猫に飛びかかった。猫は尻尾を振り回したり、脅すように少年に牙を突きつける振りをしてそれに応戦する。ジーナは後ろから、容赦なく若者のむき出しの背中を袈裟斬りに斬りつけたが、固い皮膚のために薄皮一枚しか切れることはなく、赤いみみず腫のような筋が一本背中に走った。痛みに顔を歪めながら振り返ると、若者はジーナに襲いかかった。王子は陽動作戦なのか、治安部隊の二人の間からパッと前へ飛び出し、そのまま後ろを振り向くことなく細い路地に駆け込んだ。見逃すわけにもいかず、若者たちは焦って王子の背中を追った。