薄暗い早朝のグランド。
その中にひたすらバットを振りつづける、大きな人影が一つ。
「よくもこの鈍った体で、あいつの速球に反応できたもんだ」
悲鳴をあげる掌を見つめ、大澤は喜々として呟いた。
前日の興奮覚めやらぬ彼は、騒ぐ血を押さえきれずにこの場にきていた。
「あれ、大澤さんもきていたんですか」
不意に声をかけられ、乱れる息もそのままに大澤は振り返った。
そこには哲哉を先頭に、今日から彼の仲間になる面々がいた。
「朝練があるなら、そういってほしいものだな」
少し不機嫌に言い放った大澤に、哲哉は笑ってこたえた。
「うちの部に朝練なんてないですよ、みんな勝手に集まってくるんです」
らしさを感じて笑みをうかべた大澤。
そして彼は、その中に肝心な人物がいない事に気付き、辺りを見回した。
「……これで全部か?」
八雲が気になる自分を認めたくない大澤は冷静を装おうが、そこは聡い哲哉である。その心中を読み取り、笑みをもらした。
「八雲ならそろそろ来ますよ、死にそうな顔してね」
そういって哲哉が視線を移すと、バックネットの裏からタイミングよく八雲が姿をあらわした。
「……何であいつは、練習する前からあんなに疲れているんだ?」
息絶え絶えの八雲に、大澤はア然として哲哉に問いかけた。
「八雲は毎朝、十キロくらい走ってからきますからね」
「疲れている理由はわかったが、あれで練習に参加できるのか?」